それは一夜限りの恋でした
「……」

黙って俯き、動かない私に向坂さんは怪訝そうだ。
相手は既婚者、わかっている。

「どうした?」

意を決して勢いよく顔を上げる。
真っ直ぐにレンズの奥の、彼の瞳を見た。
どくん、どくんと心臓は自己主張を続けている。
これからやることは許されないことだとわかっている。
でも最後、だから。
もう会えないのだからこそ、伝えたい。

「わ、私は」

自分から出た声はみっともなく震えていて泣きたくなる。

「向坂さんが、……好き、です」

「……」

向坂さんは黙ったままなにも言わない。
引っ込み思案な私の、精一杯の勇気。
どんな言葉が返ってきても、後悔しない。

「……なんでそんなこと、言うんだ」
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