それは一夜限りの恋でした
彼の声は怒りを孕んでいた。
強く握られた拳が細かくぶるぶると震えている。
怒らせた、後悔しないと決めたばかりなのに後悔した。

「そんなこと言われたら、諦められなくなるだろ」

次の瞬間、向坂さんに強く抱き締められていた。
想定外の展開にあたまがついていかない。

「由比が……好きだ」

泣きだしそうな声が上から降ってくる。
私を抱き締める手は心細そうに震えていた。

「由比が好きだ。
このまま帰したくない」

きっといま、私は本当に許されないことへと足を進めようとしている。
あたまの中ではうるさいくらい、警鐘が鳴っていた。

――わかっていて私は。
――この手を伸ばし。
――向坂さんを抱き締め返す。



そのまま、向坂さんが取っているホテルに行った。

「本当にいいのか?」
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