それは一夜限りの恋でした
眼鏡の奥の瞳を赤く染め、遠慮がちに彼が訊いてくる。

「妻に恋心はないが、いまさら裏切ることはできない。
まだ子供も小さいし」

「はい、わかっています」

優しい向坂さんが、ましてや子供も小さいのに奥さんと別れられないのはわかっていた。
わかっていて、着いてきた。

「向坂さんこそいいんですか」

「俺は……」

左手薬指から向坂さんが指環を抜き取る。

「これは、最初で最後の裏切りだ」

抜き取った指環を彼はテーブルの上に置いた。

「俺はいまだけ、由比だけのものだ」

「向坂さんの罪は私も背負います」

向坂さんが眼鏡を外す。
余裕なく唇が重なり、ベッドに押し倒されていく。
唇が離れ、そっと彼が私の頬を撫でた。
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