ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



私と私の赤ちゃんを救う為のメスを握る事ができない日詠先生が
産科医師としての自信を失って欲しくない
私の好きな人が、私のせいで
自信を
誇りを
どうか、どうか
無くしてしまわないで欲しい



私はそんな想いを抱きながら、姿の見えない日詠先生に再び語りかける事にした。


『日詠先生?私、東京に行く・・・先生にお腹の中の赤ちゃんを取り上げて貰えないのは残念だけど・・・頑張ってみる。だから、先生も私みたいな妊婦さんの為にちゃんとメスを握って・・ちゃんと、その神の手を差し伸べてあげて・・・』





ドコッッッ、ザザザザ―――――――――――






ドアが大きく前後に揺れながら聴こえてきた鈍い音。
その音に引き続き、カタカタと小さい音が聴こえ、ドアが小刻みに揺れた。
まるで人が泣いているかのように。




『福本さん・・・私がこの子の為に今、できること、、やるべき事って何かな?』

私は大きくなった自分のお腹を丁寧にさすりながら、そのドアの向こう側まで聞こえるような大きな声で福本さんに尋ねた。
自分はこの子の為に強くなるという意思がしっかりと伝わるような、そんな大きな声で。


「そうね・・・・なるべく長い時間、お腹の中で育ててあげて。赤ちゃんの身体をなるべく大きくしてあげる事ね。赤ちゃんは小さければ小さい程、身体の機能は未熟で抵抗力も少ないから・・・」

福本さんは穏やかな口調で、お母さんみたいなあったかい笑顔でそう答えてくれた。
その直後、再びドアが大きく揺れて、さっきまで聴こえていた ”ドアが小刻みに揺れる音” が全く聴こえなくなった。


「伶菜ちゃん・・・隣の部屋から出て行っちゃったね・・・・アナタのコト、大切に想ってくれている人が・・・・」

『出て行っちゃっいました、ね。』

「伶菜ちゃんの前向きな言葉を聞いて、安心して出て行っちゃったかもね・・・・彼、心配性だから・・・・・」


福本さんと私はお互いに顔を見合わせて笑った。


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