ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「大切な人か・・・・・言われてみれば、そうかもね、伶菜ちゃん。」

『えっ?!』

福本さんは腕組みをしながら私に声をかけた。


「だって、、忙しすぎて自分の食事もロクに取らない日詠先生が、夜、給湯室でホットミルクを作って運んでるんだから・・・・」

『福本さん、知っていらっしゃったんですか?』

「ええ。珍しい光景だっただけにね、気になって。日詠先生を慕っている若い看護婦達が彼の為にホットミルクをいれてあげるって言っても、”自分でいれたいからいいよ” って断られていて。ナースステーションでも話題になってたからね・・・・」


日詠先生が給湯室でホットミルクを作っている姿を想像した私は、自分でも頬が焼けるように熱くなっているのがわかった。




私、大切にされてたんだ
日詠先生に

今は見放されちゃったかもしれないけれど
大事に、大切にされてたんだ・・・



大切にされていたという言葉を思い出した私は
頬だけじゃなく、全身までも熱くなっているのも感じていた。

「ま、妹なら大切に想っても、当然かぁ。」

福本さんのその一言は熱くなっていた私の頬と全身から、いとも簡単に熱を奪い取り、 彼のコトを好きになっていた私の胸をチクリと刺した。



妹、か・・・
私が物心ついてからずっとひとりっこで育ってきたから
兄がいたなんて実感、全然ない

天涯孤独だと思っていたから
兄だと言われて
嬉しい気がする

でも
好きになった人に兄だと言われても
正直なところ手放しでは喜べないよ・・・

心の底から好きになった人が兄だったと知っても
苦しみながら私と赤ちゃんの為のメスを握るのをやめたその人を
もう頼れない


自分ひとりの力で
この子を育て
自分ひとりの力で
歩いて行くって決めたんだから
頑張らなきゃ

だからもう泣かない
もうすぐお母さんになるんだから



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