ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「じゃあ、今、大事な箇所を診ているから、ちょっとそのままでいてくれる?」
『ハイ』
私が頷きながら返事したのを確認した彼は再び黒い画面の白い影の行方を追う。
暫くの間、検査室内は超音波検査機材の機械音だけがウイーンという音を立てて響き渡り、私も彼も黙ったまま。
何か話しかけるべきか
それとも
検査中だからこのまま黙ったままでいいのか
そう迷ったまま天井を見上げていた私。
「お腹、もうしまっていいよ。」
彼がようやく口を開き、私のお腹の上に残っている青いジェルを柔らかいタオルでそっと拭き取ってくれた。
横になったまま衣服を元に戻す。
私は死のうとしていたのになんでこんなに検査の結果が気になるんだろう?
こんなにも気持ちの弱い私の中にまだ赤ちゃんはちゃんといるんだろうか?
そんなことを考えながら、私に背を向けたままプリントアウトされている検査結果をじっと見つめているらしい産科医師の次の言葉を待つ。
「コレ・・・検査の写真。」
その声と共に検査室内に再び灯りが燈る。
写真を手渡そうとする産科医師の顔。
蛍光灯が燈されたこともあり、はっきりとわかる。
ついさっき見せてくれた柔和な表情から引き締まったものに姿を変えていたことが。
そのせいか喉の奥のほうが締め付けられるような違和感を感じる中、彼は口を開いた。
「おそらく・・妊娠13週目だ。」
私は恐る恐るその写真に手を伸ばす。
それを受け取ろうとしても手が震えて上手く写真がつかめない。
私の異変を察した彼は私の手を軽く支え、その写真を私の手に掴ませてくれた。
とうとう手の中に収まったその写真には楕円の中に小人のようなものが映っている。
その小人のようなものには、頭と腕と脚らしきものがうすボンヤリと映し出されていた。