ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『センセ?』
「・・・ん?」
かすかな声で返事をする日詠先生。
『早く行かないと、患者さん、待ってる・・待っていますよ。』
「・・・ああ、そうだな。」
なんでだろう?
その声を聞いている私がなんだか切なくなる
『それじゃあ・・・また。』
「・・・ああ。」
日詠先生はそう返事しながらも、まだ電話を切るのを躊躇っているようだった。
もうこれ以上、日詠先生を引き留めてはいけないと思った私は
彼が言ってくれた ”また”
そして、自分も口にした ”また” という言葉を信じ
自分から電話を切った。
『切れちゃった・・電話。』
本当はもっと話していたかった
もっと声を聞いていたかったけれど
先生の手を待っている患者さんがいるから・・・
でも、聴きたいコト、聴けなかった
先生が私に謝るなんてコトしたから黄色のリボンがかかったプレゼントの送り主は先生なのかどうか
聴く余裕がなくなっちゃったんだよ
また、電話するなんて言ってたけれど
いつかまた電話、来るのかな?
そういえば随分前、TVで ”産科医師32時間激務の全て!” なんて番組やってたの思い出した
32時間なんて一日以上連続で働き続けている
日詠先生もそうなの?
だとしたら、さっき、咄嗟に日詠先生に電話しちゃったのは迷惑だったかな?
だとしたら、私からまた電話しようと思ってもいつ電話したらいいかわからない
もし、本当にそんなに忙しいのなら先生の身体が心配
もし、黄色のリボンがかかったプレゼントの送り主が日詠先生だったら
夜通しで高速道路を走り続けたってコトだよね?
それは嬉しいけれど先生の身体が心配です
私のたった一人の兄・・だから
もし、たった一人の ”兄” じゃなくても
アナタのコト、やっぱり好きだから
心配なんだよ・・・・日詠先生
だから、先生から電話来るのを待つことにします
先生が休んでいる時に私が電話しちゃったら
先生はきっと私の為に休むことを止めてしまうだろうから
ツーツーツー
携帯電話の電波状況が良いとは言えないこの病室。
そこで携帯電話を介しての先生と私の会話は途切れることなんてなくて。
電話を切った後でも日詠先生の声と入れ替わった電子音がいつまでも私の耳元で響き続けていた。