ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



そんな想いが何枚も連なってプリントアウトされているエコー写真のように俺の頭の中を駆け巡る。

彼女と自分のつながりを明らかにすべきか、そうでないのか
どっちが正解なのかわからない
だから今は産科医師として彼女と向き合うんだ

ベッドで横になったままの彼女に背を向けたまま、プリントアウトされ連なったままのエコー写真を1枚ずつはさみで切り離しながらそう自分に言い聞かせた。
そしてようやく心が定まった俺は、写真を手にして振り返り、そして彼女を見つめた。

ベッドに腰掛けて俺の目の奥をじっと見つめた直後の彼女の瞳は大きく揺れている。
それによって再び俺は葛藤に襲われながらも産科医師としてここで逃げたらダメだと心の中で唱えた。


そして

『おそらく・・・・妊娠13週目だ。』

彼女の身に生じている現実を自分の口から紡いだ。


「・・・・・・」

俺がエコー写真を差し出すも、手が震えている彼女はそれを受け取ることができない。
それを手に持たせてやるために支えた彼女の左手の甲は少し冷たい。

俺から受け取った写真に目を落とす彼女。
そして胎嚢に包まれた胎児の輪郭を点滴が挿入されたままの左腕の白い指でゆっくりなぞった。

その横顔。
それは、妊娠の可能性を感じて俺の診察を初めて受けてくれる人達が垣間見せるような柔らかい表情には見えず、強張っているようにしか見えない。

母体、胎児の状態を把握し、急を要する処置が必要かを判断するために行った検査
けれども、もう少し時間を空けてから行うべきだったかもしれない
せめて、検査結果の説明を後日にするとか・・・


そんなことを考えていた俺の目の前で彼女は突然立ち上がり、

『どうした?』

「・・・・・・・・・」

苦しそうな表情を浮かべながら左腕に挿入されている点滴のルートを強く引き抜き、検査室を飛び出してしまった。


『伶菜!!!!!!』

突然の彼女の行動に即座に対応できなかった俺もすぐさま検査室を飛び出し、彼女の後を追った。




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