ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『どんな風に凄いんです?』
私はハーブティを口にしながら彼女に尋ねてみる。
「私も外来の診察待ちしてる時に、隣に座ってた妊婦さんに聴いた話なんだけどね」
村上さんは悪阻が始まって以来、毎日食べてないと落ちつかないというプチトマトを齧りながら話を続けた。
「日詠先生、どんな妊婦さんでも逆子になってる胎児を一発で正しい位置に戻せちゃうんだって♪♪」
『へぇ~。それってそんなに凄いコトなんですか?』
持っていたプチトマトをぽろりと落としながら両手指を組み、祈るような顔をし始めた村上さん。
それとは対照的に子供を産んだ事のない私にはそれがどれくらい凄い事なのかわからない。
「そりゃーもう、逆子が直らなくて帝王切開になる人、結構いるらしいけど。日詠先生の担当妊婦さんはそれが極端に少ないんだって。」
『・・・・?』
「それだけじゃなくて、結構、難しい手術もテキパキこなしちゃうらしくて ”若くして神の手を持つ産科医師” って噂されてるんだよ。」
『・・・・神の手。』
「そう。日詠先生も ”ちゃんと生まれてくるから大丈夫だから自分に任せて欲しい” って言ってくれて・・・・いつもは言葉が少ない日詠先生だけど、でもその言葉に重みがあるんだよね。だから、私、来週の手術、なんにも心配してないんだよ。おまけにあの切れ長のキレイな目でじっと見つめられて ”大丈夫” なんて言われると、ドキドキしちゃうんだよね・・・・」
村上さんは指から落ちたプチトマトを拾い上げ、お皿に戻し、身振り手振りを加えながらやや興奮気味に話してくれた。