ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



目の前には、壁にもたれながら
右手にみかん大福が入っている箱を
左手には今日の午前中に届けたギンガムチェック柄の布に包まれて居るお弁当箱を載せている日詠先生の姿があった。


お腹が空きすぎている私は猫みたいに、彼の右手にぶら下がっているみかん大福の箱にまっしぐら。
もう少しで手が届くかという時に、それはひょいと上へ持ち上げられた。


『あっ・・・・』

「お前、釣り上げるの、簡単。」


彼は昨晩の行動が嘘のような軽い口調でそういいながら意地悪っぽく笑った。


『そんなぁ・・・』

「かなりの腹ペコ状態みたいだな。」


可笑しくて堪らないのが、私でもよくわかる
日詠センセ、昨日の夜のコト・・・なんとも思ってないのかな?


あんなに顔を合わせ辛いと思ってたのに
彼のその笑顔を見るとやっぱり一緒にいたいと思う私は

やっぱり、ズルイですか?


「ハイ、コレ、お弁当のお返し。ご馳走様でしたっ!コロッケ、サクサクで美味かった。」

『たいしたモノ作れなくて、ゴメンナサイ・・』

「なに言ってんだか。ハイ、コレ。」


今度こそ目の前に差し出されたみかん大福の箱を受け取ろうと両手を前方へ差し出した瞬間。
その箱はみるみるうちに遠ざかって行き、今は用がないお弁当箱がどんどん近付いて来る。


『あーーっ、みかん大福が、遠ざかってくーーー。』

仕方なくお弁当袋を手にしながらも、自分から遠ざかってしまったみかん大福の箱に手を伸ばし続けるマヌケな姿の私。

「まだ病院に居たのに俺に ”もう家に着いた” ってメールした罰な。コレ、俺が、全て頂くコトにしようか。」


罰って
全て頂くコトにしようかって

もしかして私、病院にいたの、日詠先生に見つかってたの?!



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