ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ31:青臭いバナナと甘い蜜柑大福
【Hiei's eye カルテ31:青臭いバナナと甘い蜜柑大福】
病院玄関で見かけた人物。
それは伶菜とベビーカーに乗っている祐希。
声をかけようと思ったが、三宅に見つかって変に踏み込まれるのも嫌だと思った俺はすぐさま携帯電話使用可能エリアに移動して、伶菜に一緒に帰ろうメールを送った。
『傍から見ている人にストーカーと間違われそうだな。』
伶菜の姿を遠目で見ながら、白衣のポケットの中に入れたままいつそれが揺れるかとグッと握っている俺。
伶菜は鞄から携帯電話を取り出し、操作をし始めた。
メールを見たのか、顔を上げ、何かを考えているような伶菜。
『携帯が揺れるのを握ったまま待つとか、あり得ないだろ。』
そういう時間の過ごし方なんてしないはずの自分に苦笑いしていると、彼女は携帯電話を持つ指を動かし始めた。
なかなか反応しない手の中にある携帯電話。
顔を合わせ辛い状況である俺なのに、伶菜の反応が待ち遠しくて堪らない。
それなのに伶菜はまだメールを打っている様子。
どれだけ長い文をかいてるんだと首を傾げた瞬間、
『・・・来た。』
手の中で携帯電話が揺れた。
白衣のポケットからそれを取り出し、メール受信箱の開封まで流れるように手を動かす俺。
そこに書かれていた内容にまた首を傾げた。
【送信先】伶菜
【題名】伶菜です。
【本文】
お疲れ様です。せっかくですが、もう家に着いちゃいました。
『どういうことだ?』
予想していた長文メールじゃなかったことにガッカリしているわけじゃない
『今、そこにいるのに・・・』
直視でその姿を確認しているのに、もう家に着いたって、どういうコトなんだ?
今度は携帯電話でどこかに電話をかけている彼女。
『誰かと待ち合わせ・・・か?』
電話を終えた伶菜はベビーカーの祐希のほうに向かって何かを言っているが、ここからはさすがに聞こえない。
その状態から動きがない今のこの状況。
『これじゃストーカーって疑われてもおかしくないぞ。』
自虐的にそう言い、彼女達から視線を外すと、玄関からお客を捜しに来たらしいタクシーの運転手の姿が見えた。
何となく彼の姿を目で追うと、その人は伶菜に声をかけた。
『タクシーか・・よっぽど急いで帰りたかったんだな。』
何で俺の誘いを断ったかはわからない。
でも、俺と帰るとなると、着替えに行ったりする俺を待つことになるだろうから・・と自分なりに伶菜の事情を考えて飲み込み、そのまま医局に戻った。