ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「今のナオフミくんに効きそうな栄養ドリンク、買ってあげる~。」
『いいですよ。それぐらい、自分で買います。』
あの時、奢ったでしょ?と後で何を要求されるかわからないから、福本さんに借りは作らないほうがいい
かれこれもう数年もの間、彼女とやり取りして学んだことの1つだ
「せっかくご馳走してあげようと思ったのに。じゃあコレ、結構効くわよ。」
『それは、わざわざどうも。』
手渡された栄養ドリンクを素直に受け取り、そのままレジへ向かおうとした矢先、行く手を阻まれた。
「そういえば奥野先生にも手伝って貰ったほうがいいんじゃない?」
『母親学級とかですか?』
それじゃないでしょ・・・と福本さんは呟きながら栄養ドリンクのすぐ近くにあった”おなかに優しい牛乳”と書かれたドリンクパックに手を伸ばした。
『じゃあ、何なんです?俺が奥野さんに頼むべきこと・・って。』
「さすがに本命の前では冷静でいられないってとこでしょ。」
『奥野さんになにかあったんですか?』
「は~っ?!」
今度は何、寝ぼけてるのよ?って言いた気な顔で睨まれた。
彼女のこういう顔もよく見かける顔。
「何かあったのは、アナタでしょ?」
『俺・・ですか?』
「わかってないな~、今日は経腹エコーで診断がついたけど、伶菜ちゃんの妊娠週数がもっと早期だったらどうしてたのよ?」
『経膣エコーですよね?』
経膣エコー
膣の中にプローブ(受信機)を挿入して診る検査だけあって
ただ腹の上をプローブで滑らすだけで胎内情報が得られる経腹エコーとは異なり、ハッキリと物を口にする妊婦さんからはやりたくないという声をちらほら聞かれたりもする
でも、妊娠初期の診察には特に欠かせない診察ツールのひとつだ
「経膣エコー、やれたの?」
『経腹エコーがダメなら、必要性をちゃんと説明して同意を貰った上でやろうと思ってましたけど。』
「あの伶菜ちゃんのでも?」
『・・主治医ですから、俺。」
目の前ではぁ~っと大きな溜息をつかれた直後、押し付けられた”おなかに優しい牛乳”と書かれたドリンクパック。