ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



『・・・えっ?先生、今、なんて言った?』


浴室へ繋がっている洗面所のドアが開いた音と彼の声が見事に重なってしまい、彼のその声を聞き逃した私は、廊下中にこだまするぐらいの大きな声で彼に聴き返した。

私の方を向いてくれた彼は、なぜか、はにかんでいるように見える。


「もう一回聞きたいのか?」

『ハイ、もう一回!!』

「・・・それじゃ」

さっき言ったことを想い出そうとしているのか、勿体ぶっているのかなかなかその先の言葉を紡ごうとしない彼。


『それじゃあ?』

「・・・今のうちに食べるといいぞって言ったんだ・・・蜜柑大福の賞味期限、明日までだからな・・・・」

『なーんだ、みかん大福か・・・・』

彼は大事なことを言っていると踏んでいた私はつい気の抜けた口調でそう呟いてしまった。


「な~んだじゃないだろ?きっとあさってとかまでそのままにしておくと、蜜柑を包んでいる餅の部分が硬くなるぜ、ヤだろ?硬い蜜柑大福は。」

『ヤだ!』

「だろ?じゃ、柔らかい内に食うんだな!!じゃあな。」

彼はそう言いながらフェイスタオルを肩にかけ洗面所の中へ入って行ってしまった。


そして廊下にひとりきりになった私はリビングへ行きソファーに腰掛けた。

日詠先生がそこまで言うならと手に持っていた箱を開けてみかん大福を手に取ろうとした瞬間。
みかん大福の賞味期限と販売菓子店名が記載されているしおりがペラッと裏返しになって落ちた。

落ちる瞬間、その裏面に何かが書かれているのに気がついた私。
見覚えのある文字。
そのため、蜜柑大福ではなく、そのしおりを手に取った。

”明日午後3時、名古屋駅のツインタワー1階のデカイ時計の前に集合!祐希も一緒に・・・”

この前の夜中の置き手紙とは違って
いつもの達筆な彼の文字


その後、夕飯の時に、蜜柑大福のしおりに書かれていた内容を彼に聞いてみても、
”前もって謝っておく。理由は明日行けばわかるさ”
”他に予定がない?・・・じゃあ集合ということで”
というどこか煮え切られない返答の繰り返しで詳しい内容は話してくれないまま
翌日を迎えてしまった。



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