ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



「失礼ですが、伶菜さんとはどういうご関係でしょうか?」


患者さんと向き合う時のような丁寧な態度の福本さん。
彼女はガクガクと震えたままでいて言葉が一向に出てこない私の代わりにその人・・祐希の実の父親に応対してくれた。


「突然失礼しました。佐橋康大と申します。伶菜と・・・いや伶菜さんとお付き合いしていたんですが・・・いや、お付き合いしてるって言ったほうがいいと思いますが。」


久しぶりに聞く営業マンみたいななんとも調子のいい口調。
水泳で鍛え抜かれた逆三角形型の上半身に小麦色に日焼けしたキレイな肌。
彼に捨てられたコトがわかった時、それでも彼のコトが好きで
あんなに泣いたのに
自ら命まで無駄にしようとしたぐらい大切に想っていたのに


だけど今は、ただ怖い
彼のことが怖い・・・それだけ


ささやかだけど幸せに過ごしている私に
この先、何かが起こりそうな気がして怖い



「お付き合いなさっているんですね?伶菜さんから彼がいるとは聴いたことがなかったので・・・失礼な質問を申し上げまして、大変失礼致しました。」

「いえ、僕のほうこそ、2年前、勤務していた会社から突然、仙台へ転勤を命じられて。」

「仙台ですか。」

「ええ、彼女にそれを伝えるか伝えないか迷った上で、彼女に “実はキミ以外にもお付き合いをしている人がいて、キミとはもう付き合えない” なんて嘘をついて名古屋を離れたんです。」



なんでそんな嘘ついたの?

私、アナタのコト
本当にスキだったのに・・・



「初対面なのに図々しくお聴きしちゃいますけど、なぜ彼女にそんな嘘ついたんですか?その頃、伶菜さんのお腹の中には胎児がいて、それなのにアナタが彼女から離れてしまって・・・彼女は心細かったと思いますよ・・・」

冷静な口調で彼に問い質している福本さん。

彼女は私が一番苦しかった時期を知っている人
だから、そんな私に彼が嘘をついたコトに対して疑問を持つのは当然のコトかもしれない


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