ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
もしそうなら私
今まで日詠先生にすぐ傍で守って貰っていたけど
そろそろ自分の足でしっかりと立って前に進まなきゃいけない
康大クンが私の前に現れたのも
きっと神様が私にそうするように仕向けたんだ
それは
自己中心的な選択をした人間
自分の幸せを優先した私に対する
それなりの仕打ちなんだ
だから
日詠先生と過ごしていたかけがえのないモラトリアム
・・・猶予期間はもう終わり
彼からちゃんと自立しなきゃいけないんだ
今度こそ自分の幸せのためにではなく
祐希の、そして日詠先生の幸せのために
私は日詠先生の傍から離れなきゃいけないんだ
『私、康大クンと・・・一緒に』
ガチャッ、、バタン!
今のドアを開ける音
もしかして日詠先生?
今の私の言葉、聞かれた?!
「伶菜ちゃん、お待たせ~。新しい点滴、処方されたから取り替えるね。あらっ、ゴメンナサイ。お話中だったかしら?」
点滴剤の入ったビニールパックを手にした福本さんと私の声が重なる。
自分が予想した人とは異なる彼女の姿を確認しホッとして言葉を失っていた私とは対照的に、福本さんは点滴剤の入ったビニールパックを点滴台にひっかけながら、涼しげな顔で康大クンにも話しかけていた。
「いえ、大丈夫ですよ。僕、そろそろ失礼しますから。伶菜のコトよろしくお願いします。」
いかにも私の家族みたいな口ぶりで福本さんに対して深々と頭を下げる康大クン。
「ハイ、責任持って伶菜さんをお預かりしますからご安心を。」
いつもにも増して丁寧な態度の福本さん。
さすが看護師長。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。伶菜、さっきの件、また今度にでも返事を聴かせて欲しいから。それじゃ、また。」
福本さんに負けてないくらい彼も丁寧な態度。
なんだか私、変な胸騒ぎがするくらい・・・
だから私は彼に返事しないだけでなく、手を振ることすらできない。
康大クンはそんな私に軽く会釈をして、福本さんが開けっ放しにしていた出入り口のドアをそっと閉めて処置室を後にした。
日詠先生と一緒にいる生活
私が彼に甘えている状態であるこの生活
『・・・・・・・・。』
甘えている時間であるモラトリアム(猶予期間)
それはきっと長くは続かない
この時、私はそれをイヤというぐらい痛感した。