ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ42:忍び寄る影

【Hiei's eye カルテ42:忍び寄る影】



病院まで昼の弁当を届けてくれた伶菜が突然、失神した日の夕方。
点滴を終えて、先に帰宅したはずの伶菜の様子も心配で、そろそろ帰宅しようとしていた俺に声をかけてきたのは20代半ばか後半ぐらいの保険会社の男性営業マン。

彼は保険の商品の説明をしに来たようで、文献検索を終え次第、早く帰宅しようと思っていた俺は一度はそれを聴くことを断った。
しかし、その後の彼の ”いざという時に” という言葉によって、将来のことを考え始めてしまった俺は彼の説明を拒むことができなかった。


「では、早速よろしいでしょうか?」

『どうぞ。』

「弊社も医療保険分野においても新商品を投入し始めています。その一例がこちらです。」


ついさっき、俺の背筋をぞくりとさせた人物と同一人物なのか疑ってしまうような爽やかな笑顔で俺にそう語りかける彼。
その彼が流れるような手つきで持っていたブリーフケースから取り出したのは、保険会社のパンフレット。
その次に出てきたのは、質が良さそうなアルミ製のシンプルなペンケースだった。


「オススメのプランはこれです。」

そのペンケースから取り出した黄色の蛍光マーカーがパンフレットの上ですうっと滑る。
定規を使わずフリーハンドでマーカーを動かしているが、それで引かれた線は真っ直ぐで揺れたりはしていない。
そういう線を引く人間らしい、丁寧な説明。

その説明を聴いていて、自分が今、契約している保険の詳細な内容をきちんと把握していなかったことを痛感。


「ご結婚されているようでしたら、保証内容は独身の時よりも手厚くしておくべきでしょう。」

『結婚・・・か。』

「先生、もしかして、ご結婚されていらっしゃらないですか?」


俺も30才を超えてるから、
結婚しているように思われてもおかしくはないだろう

結婚とか今まで真剣に考えたことはなかった

三宅教授に娘と結婚しろって言われても
今ひとつ現実的に考えられなかったぐらいだし



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