ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋


『ええ、独身です。』

「そうなんですか?日詠先生ぐらい眉目秀麗な男性なら引く手あまたなのでは?」

『・・・そんなことないですよ。』

「それに、手作り弁当とか・・てっきりご結婚されているのかと思ってました。」

『手作り弁当?』


なんで弁当があるのを知っているんだ?と彼の様子を窺う。
すると、彼は俺のデスクのほうを指差す。
その先には、伶菜が届けてくれた弁当あり。


『ああ、これは・・・・』

「愛妻弁当とかじゃないんですか?」

『・・・妹が作ってくれているんです。』


伶菜の作ってくれる弁当
それは愛妻弁当という名前ではないけれど、不規則な生活である俺の体を気遣ってくれているのがよくわかる彩り豊かなものだ
それを食べると、頑張ろうという気持ちにもなる
それは俺にとって、大切なもののひとつ

他人から見たら愛妻弁当とかに見えるんだな


「妹さんですか・・・仲がよろしいんですね。」

『・・・仲がいいっていう言葉が当てはまるかはわからないですけど、いろいろ助けて貰っています。』

「実家で一緒に暮らしていらっしゃるんですか?」

『いえ、実家ではなくて、僕の自宅・・・・あっ。』


プライベートな事柄を口にしていることに気がつき、途中で言葉を止めた。
人懐っこい彼の雰囲気に心を許している自分がいるようだ。


「私は男兄弟で、むさくるしい関係だったので・・・なんか羨ましいです。」


彼はそう口にしながら、”よかったらコレどうぞ” と保険会社名のロゴが記入されているメモパッドを差し出してくれた。


「そのうちまた、こちらに立ち寄らせて頂きますので、もし、弊社の商品にご興味を持って頂いたようでしたら、声をかけて頂けたらと嬉しいです。」


プライベートな事柄を喋り過ぎたという俺の想いを読み取ったのだろうか?
彼はそれに深く踏み込むことなく、”貴重なお時間ありがとうございました” と丁寧にお辞儀をしてから立ち去った。


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