ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
それを実行しようと日曜日の早朝、最寄りの駅から2つ離れた、知人がいなさそうな駅に歩いて向かう。
昨日までの大雨が嘘のように、その朝の空は雲ひとつない澄んだ青色。
チチチと小鳥のさえずりがかすかに響いていた初秋の朝。
そんな気持ちのいい朝だったけれど、人生に行き詰まったと思い込んでいた私は死へ向かって歩き始めていた。
駅に着いた私は切符の自動券売機の前に立つ。
チャリーリーーーーン
自動券売機に入れ損なった50円玉が指をすり抜けて床の上に転がり落ちる。
それを拾おうとした私の右手はかすかに震える。
やっとの思いで50円玉を拾い上げ、切符を買った私はようやく自動改札を通った。
薄暗い階段をゆっくり一歩ずつ昇っていく先には、リュックサックを背負った4人の親子連れが楽しそうに話をしながら昇っている。
父親、母親、小学生位の男の子、幼稚園位の女の子の4人家族
今からハイキングか動物園にでも出かけるんだろうか・・・傍から見ていても温かみのある家族の姿
1才から母親とふたりぼっちで、母親が亡くなった18才からはひとりぼっちになった私には眩しすぎるその光景。
彼らの足取りにつられ、私も階段を昇り切ってしまい、右手に握られていた160円切符もじっとりと湿る。
私にはあの温かい家族も
包み込んでくれる彼も
私を必要とする人も
誰もいない
だから、これでいいんだ・・・・
私はようやく覚悟を決めて駅のホームの白線まで近付く。