ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『真里なら、康大クンのアドレス、わかるかもしれない。』
そして、もう一度携帯電話を手にして、今度は真里のアドレスを画面に表示して通話ボタンを押した。
プルプル、プルプル♪
”こちらは△です。おかけになった電話は電波の届かない所にいらっしゃるか電源が入っていないためかかりません、こちらは△・・・”
耳に当てた携帯電話から聞こえてきたのは、威勢のいい真里の返事ではなく、キレイな声をした女性のアナウンス。
『そういえば、真里、先週からニューヨークに出張って言ってたっけ?』
海外出張が多いとはいえ、自分の携帯は海外でも使用できるモノではないから、会社持ちの携帯電話を持参しているって言ってたしな
さすがに会社持ちの携帯電話の番号まで聞いてないや
あ~、どうしよう
あと誰に当たればいいかな?
美弥ちゃんかな?佳澄ちゃんかな?
康大クンの男友達って、電話かけづらいし
どうしよう
でも、早く康大クンに連絡をとって、事情を話さないと
「マー!」
相変わらず足元をふらつかせながら歩いていた祐希がそう声をあげながら、私の太ももを細い両腕でしっかりと掴み寄りかかってきた。
『取りあえず、冷えるから、ウチに戻ろっか!』
祐希の母親になってから、彼との親子のやりとりに自分の多くの時間を割くようになり、悩んでいる時間を短くせざるを得ない今の状況。
こういう貴重な時間があるからこそ、私は昔みたいに悩んでばかりいられずに済んでいる。
ガチャッ・・・・
そして再び玄関のドアを開けた瞬間、私は愕然としてしまった。
『お兄ちゃんに、夜勤用の着替え渡すの忘れた~。』
玄関先で思わず大きな声をあげてしまった私。
「マー♪」
そんな私の足にまたじゃれついている祐希。
『祐希!おやつ食べたら、お兄ちゃんの着替えを渡しに病院まで散歩行こうか。』
「マー♪」
肩を落としながら祐希に語りかける私に、祐希まで屈託のない笑顔を見せてきた。
きっとまだ私が語りかけた言葉の意味、わかってないと思うけど。
『祐希に元気を貰ったし、後でお兄ちゃんのトコ行こうね♪』
私も祐希に負けないくらいの笑顔で彼にそう声をかける。
でもその数時間後。
私はまた、血の気がサーッと引いてしまうような現場に遭遇してしまうことになるなんて、この時の私は全然想像なんてできていなかった。