ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
『聞こえるか?』
そう考えた俺はエコーの胎児心音のボリュームが伶菜にも聞こえるぐらいな大きさになるようにスイッチを捻ってから彼女の反応を眺める。
ハイっと返事をした伶菜は視線を逸らしながら真っ赤な顔をしているも、逃げ出そうという気配は感じられなかった。
そして、突然聴こえてきた音に一生懸命耳を傾けようとしている彼女がもっと聞きやすくなるように、もう少し音のボリュームを上げた。
しっかりその音が聞こえた影響なのか、少し顔をしかめた彼女。
胎児の成長を提示するのはまだ早かったかもしれないそう思い始めた俺に
「こんなにトクトク、、リズムが速くて・・・赤ちゃん苦しくないのかな?」
彼女は真面目な顔でかわいくて嬉しい問いかけをしてくれた。
その問いかけに、胎児は大丈夫であることを伝えると彼女は安堵した表情を浮かべる。
そんな彼女を見ていてようやく俺は
自分が彼女を支えていくことができそうな・・・そんな手応えを感じ始めた。
俺が産婦人科医師になってよかったと初めて心から感じた瞬間だったかもしれない
でなきゃ、
もし俺が医師じゃなかったら駅で伶菜を助けても、救急隊員に引き渡して、そこで伶菜とはまた離れ離れになっていた
もし俺が医師であっても産婦人科医師じゃなかったら、救急車に一緒に乗って病院まで同伴しても、その後は産婦人科医師に伶菜を託す形になっていた
これからは彼女の命を助けるだけで終わらず、新しい命の成長をずっと一緒に見守ることができる
『ようやくいい顔をするようになったな。』
この時の俺は
生きることに前向きになった様子の伶菜によって
色褪せかけていた自分の生活に
新たな生きがいを
新たな彩りを
与えて貰った
・・・・そんな喜びを感じずにはいられなかった。