ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



『でも、本当は嫌だ。』

病院へ出勤する駅までの道をひとりで歩く途中。


『手離したくない・・・伶菜のこと。』


立ち止まって大きく溜息をひとつついた俺は
ようやくはっきりとした声で自分の本音を呟いた。
昨晩、ドア越しに伶菜と背中合わせ状態で本音を漏らしてしまった時のような小声ではなく、明瞭な声で。
だが、そうやって本音を口にしても、時間は決して止まってはくれない。




そんな中、午前中という忙しい時間帯にも関わらず立ち寄った医局。


「こんな時間に、こんなところでサボってるなんて、珍しいわね。」


自分のデスクで缶コーヒーを飲みながらひと息をついている最中、内科医師の三宅に声をかけられた。



『ただの休憩。』

「ふ~ん、相変わらず忙しそうね。」

『・・・・まあな。』

「でも、敢えて忙しさを求めてるんじゃない?」


椅子に腰掛けている俺の肩に手を回され、耳元で囁かれる。
以前、伶菜に余計なことを言ったらしい三宅に対し、まだ(わだかまり)りが残る俺。


『・・・どうだかな。』

下手なことは言えないと密かに身構える。


今の伶菜と俺の
”もうすぐ終わってしまうかもしれない大切な時間・空間” に
誰も立ち入って欲しくないからだ。




「そういえば、ウチの父がこの病院へ派遣しようとしている産婦人科の医局員を日詠クンに紹介したいからって言ってたわ。確か、今日は日勤で上がりでしょ?』

「・・・ああ。」


三宅は ”これ、1枚貰うわね” と言いながら、俺のデスク上にあったメモ用紙を手にとり、それに何かを書き入れた。


【名古屋アーバンオリエンタルホテル レストラン:マリオット19時】



「今晩、ここへ来て欲しい・・・ですって。」







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