ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
「わかりました。コレ、目を通させて頂きます。今から病棟へ向かわなくてはならないので、ここで失礼致します。」
「お忙しい中、貴重なお時間を頂きありがとうございました。」
いつも病院で見かける ”外見はクールだけど、患者さんや病院職員に対しては親切丁寧な態度を欠かさない” といういつものお兄ちゃんの話しぶりに聞こえる。
康大クンの声からも
ついこの間、お兄さんを説得してみせると言った時の、気負ったギラギラした雰囲気は感じられないし。
ふたりが実際にどんな様子なのか、こっそり覗こうとしていた矢先。
パタッ、パタッ、パタ・・・
お兄ちゃんのものと思われるサンダルと床が擦れる音が遠ざかっていき、その音が聞こえなくなると共に彼の声も消えた。
お兄ちゃんと康大クン
会話を交わしてしまっていたけど
でも、なんだか事務的な会話みたいに聞こえたな
『何、話していたんだろう?』
気になる
お兄ちゃんはもうそこには居なさそうだし
康大クンを捉まえて、本人に何を話していたのか聴いて、こっちの事情も聞いてもらわなきゃ
『康大クンがいなくなっちゃう前に、急がなきゃ!!!!』
慌てる気持ちを抑えることができない私は少し前のめりな姿勢でベビーカーを押してその角を曲がる。
その先には私の予想通り、お兄ちゃんの姿はもうなくて、
スーツ姿の康大クンが若干前屈みの姿勢で書類を整えながら、床の上に置いてある黒いビジネス鞄にそれを入れようとしていた。
もうお兄ちゃんもいないことだし、声かけていいかな?
『こ、康、』
「伶菜だろ?」
私の呼びかけを掻き消すように重なってしまった彼の声。
まだ、目を合わせていないどころか顔すら見ていないのに、彼は私の名前を呼んだ。
「なんとなく来ると思ってたんだ、ここにね。」
彼はそう言いながら私の方に振り返り微笑む。
その表情、そして、その声が・・・私の全身をビクリとさせる。
気のせいかな?
なんだか怖い
彼は微笑んでいるのになんでだろう?
落ち着かない