ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



康大クンって、生命保険会社の営業マンだったっけ?
確か付き合っていた頃は、不動産系の会社の営業マンだったはず
転職したんだ

転職しても営業マンなんだ
お喋り、上手だもんね

じゃあ、さっきのパンフレットっていうのは
自社商品の宣伝なのかな?

お兄ちゃんは目を通しておくって言ってたから
康大クンはきっと仕事してただけなんだ

あっ、ホッとしてる場合じゃない


『そうそうマズイよね~。そうだ、康大クン、やっぱりお兄ちゃんに祐希の父親のコト言うの、ちょっと待っていて欲しいな・・』

自分の頭の中を悟られないように軽い口調でそう伝える。


「なんでかな?」

私の口調にのせられた彼も同じような口調でその言葉を返してきた。


ここからは嘘、つかなくてもいい
私、本当にそう思っているから


『私ね、お兄ちゃんに余計な心配かけたくないの・・・実はね・・・康大クンの“他にも彼女がいる”という言葉を鵜呑みにしちゃって、突然会社にも解雇されて、自分でもどうしようもないぐらい落ち込んで自殺しようとして・・・・・』

「自殺?!」

『・・・そう。そのコトをお兄ちゃんも知ってるの・・・・・私、偶然にもお兄ちゃんに助け出されたから・・・・』

こんなシビアな話題もまるで他人事のように彼に告白した私。



その話題に対して取り乱すことなく触れることができたことを自分でも感心する
ひとりぼっちじゃなかったから、こんなにも強くなれたんだ


「・・・・・・・・・」


そんな私とは対照的に、彼は目を大きく見開いたまま言葉を失う。
それでもそれに構うことなく私は言葉を紡ぎ続ける。


『だから、お兄ちゃんが祐希の実の父親が康大クンだということを知ったら、きっとこの結婚を反対すると思う。』

「・・・・・・・・」

『自殺しようとしていた私を助け出したお兄ちゃんは私の元カレという存在を今でも決して許していないと思うから。』

「・・・・・・・・」


普段は饒舌な彼なのに、まだ言葉というものが出てこない。
それでもまだ彼に語りかける。


お兄ちゃんと祐希の幸せのための自分の結婚というケジメをつけるには

『だから、私達の生活がちゃんと軌道に乗るまでは祐希の実の父親であることをお兄ちゃんには黙っていて欲しいの・・・その事実は私が彼に伝えたい・・・今はちゃんと幸せだよって言葉とともに。』

自分で自分の恋を終わらせる必要があるから・・・



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