ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
でも、“今はちゃんと幸せだよ” って口にした瞬間。
自分がお兄ちゃんの前でちゃんとそう言えるようになるかという不安に駆られて、つい泣きそうになってしまった。
こんな時、
お兄ちゃんは・・・日詠尚史という人は
彼の親指を私の下瞼に当てながら
“もう何も言わなくてもいい” って言いながら、涙を拭ってくれる
その指が
その言葉が
今、私の一番欲しいモノ
でもそれも・・・もう叶わない
「・・・伶菜、ゴメンな・・・俺、そこまで伶菜を追い込ませてしまってたんだ・・・」
康大クンは唇を噛みながら私に頭を下げた。
「でももうそんな想いさせないから・・・キミの子供の父親であることも、俺からは言わないから・・・・だから一緒になろう。」
そして、彼は申し訳なさそうに私にそう約束してくれた。
でも私はあなたに自分の一番欲しいものを期待したりはしない
あなたに望んでいるのは、ただ
祐希の父親であること
その事実を私よりも先にお兄ちゃんの前で口にしないで欲しい
ただ、それだけ
『うん、ありがとう・・・・・』
その後、康大クンと私はお互いに手帳を開きながら、お兄ちゃんに会えそうな日を一緒にピックアップした。
なぜか、早いうちにお兄ちゃんに会いたがっている康大クン。
生命保険の営業もしたいからかな?
あんまり仕事を持ち込まないで欲しいけれど
仕方ないのかな?
生命保険の営業って大変そうだし
「とりあえず、俺らが都合が合っても、お兄さんに会えないんじゃ、話が進まないから。だからお兄さんの都合のいい日を聴いてみてくれる?」
『わかった。近いうちに聴いてみるね。』
「じゃあ、また電話する。」
結局、顔合わせの日程調整は私に委ねられた。
まだ仕事途中らしい康大クンとは医局の前で別れて、私は医局の事務員さんに声をかけた。