ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
俺が近付いても気がついていないぐらい、看護師に抱っこされている新生児をじっと見つめている彼女。
それは伶菜だった。
彼女が立っている廊下は薄暗く、ナースステーションの明かりが彼女の横顔を照らす。
新生児と看護師をじっと見つめるその眼差し。
それは、自分の赤ん坊との対面を楽しみにしているようなキラキラとした輝きはなく
寂しそうに揺れている
・・・そんなように見える。
またなにか自分を追い込んでしまうようなことを考えてしまわないか心配
でもこの時はそれ以上に、彼女の寂しそうな瞳のせいで
ほっておけない
そう心がひっかかる感じがした。
伶菜がそんな顔をするのも無理はない
彼女の腹の中にいる胎児の父親の存在は
今も見当たらないから
今まで診察した中でも父親不在の妊婦さんはいた
もちろんそういう妊婦さんだって心配した
妊婦さんの家族や親戚、看護師、ソーシャルワーカー(相談員)や地域の保健師などと連携を取りながらそういう妊婦さんを支えていく中で、少しずつ大丈夫そうだという手ごたえを感じていった
伶菜に対しても、同じように看護師や相談員などと連携を取りながら経過を見ている
それでも、まだ大丈夫だという手ごたえを掴み切れないのは
彼女の過去の事情を知っているせいなんだと思う
彼女には気軽に頼れる両親、家族もいないという事情
そして
彼女の両親がどんな人達なのかという事情を・・・
でもどう声をかければいいんだ?
気の利いた言葉
寂しさを紛らすような言葉
もう一度前向きになれるような言葉
赤ん坊の成長を心から嬉しいと思えるような言葉
彼女を守るのは俺だという想いが
それらを導き出そうとする思考の邪魔をする
寂しそうな瞳のままの彼女が握った左手の拳が小さく震えているのを見つけた俺は
「あの・・・・」
言葉が出てこない反動で動いた体で彼女の背中を抱きしめた。