ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
Hiei's eye カルテ50:我儘と言う名の願望


【Hiei's eye カルテ50:我儘と言う名の願望】


奥野さんが立ち去った後の産科のドクタールームで缶コーヒーを飲み干し、医局へ行く。

土曜の朝の医局はいつもよりも静か。
土曜日の外来診療は医師や看護師の休暇を確保するために平日の半分以下、必要最低限しか稼動させていないからだ。



『こんなモノ・・・俺には縁がないと思っていたのにな。』

医局にあるパソコンで院内専用HPにログインして溜息をつきながら該当する内容を入力する。


『こういうのは、直筆で書くものだと思うのは、俺が古い人間になってしまった証拠なんだろうか?』

自虐的にそう言いながら、入力した画面をプリントアウトする。


退職届
自分にとって一番何が大切なのかをじっくり考えた上で用意したそれ

自分にとって一番大切なのは・・・伶菜


別に今、自分が置かれているこの環境下で彼女を大切にするように事を運べばいいのかもしれない

でも、そう事を運べば、佐橋さんから伶菜を奪うことになる
そして、祐希からは実の父親を奪うことになる

つまり、これからの未来がある家庭を壊そうとしている

おそらくそれは
子供を虐待から守りたいという産科医師の俺の信念に大きく反する行為

そんなことをする人間は産科医師としてふさわしくないだろう


かと言って
伶菜を手離すことなんかもうできない



『我儘な人間・・・なんだろうな、俺は。』


ようやく自分が出した答えのきっかけとなるものを丁寧に折り畳んで白衣のポケットに入れ、屋上へ向かう。
唯一、味方をしてくれるかもしれない高梨の両親が居る空を見上げ、自分の我儘を通そうとしていることを伝えるために。





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