ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋



『・・・しっかり働く・・・か。・・・ったく、相変わらず微妙だよな・・』


それなのに俺はつい大人気なく生意気な口を利いてしまう
本当は ”ありがとう” とか ”心を入れ替えて頑張りますので宜しくお願いします” と感謝するのが当然なんだろう

でも、今はまだそれを口にはできない



『三宅、お前のさ・・・内科医としての実力は俺も知ってるから・・・・また、俺の担当患者を助けてくれな・・・・内科医として妊婦への適切なアドバイスで。』

まずは、こういう状況を招いた人間のひとりでもあるものの、俺が傷付けてしまっていた三宅がまた、新しい一歩を歩み出せるように背中を押すこと


そして、

『・・・伶菜、今度こそ行くぞ。』

俺の人生を左右するかもしれない一大決心を彼女に・・伶菜にきちんと伝えること



それらをきちんと終えるまでは
奥野さんそして福本さんに礼を言うことはできない

今回のことで傷付いた伶菜のことを心配し、佐橋さんを訴えることを勧めてくれた杉浦さんにもまだ、礼は言えない

彼女達に礼を言うのは、
伶菜と俺の未来がどうなるのかの結論を掴んだ時なんだ



だから、今はただ手を強く引く

今のこの状況がどうなるのか不安そうに手を震え続けたままでいる伶菜の手を・・・




でもこの時の俺は、

「待って、お兄ちゃん・・・・」

伶菜という人がどういう人間なのかまだ充分把握し切れていなかったみたいだった




「康大クン、私、本当にアナタのことが好きだった。でも、その想いはもうどこかへ行っちゃってた。お兄ちゃんが私に居場所を作ってくれたから。」


充分傷付いているはずの彼女なのに、
彼女を傷付けた人間のことから逃げようとしないこと

そして

「だから、アナタはアナタの道をちゃんと歩んで欲しい・・・・お金とかに惑わされずに、目の前にある自分のやるべきことをしっかりと着実にやって欲しいの。私も自分自身の力で祐希を幸せにするように精一杯努力するから!」

それどころか
彼女を傷付けた人間にもちゃんと未来があるということを真っ直ぐ彼を見て教えてやることができる


彼女がそんな強い人間であることを
俺はまだ充分に把握していなかったようだ

そんな彼女に ”お兄ちゃん、行こ!” と スッキリした顔で逆に手をひかれることも想像なんかしていなくて


そんな彼女にますます心を奪われている俺は、彼女にひかれる手によって、
動かせずにいた足をようやく一歩、進めることができたんだ・・・



< 646 / 699 >

この作品をシェア

pagetop