ラヴシークレットルーム Ⅰ お医者さんとの不器用な恋
あれっ?何、この空気
私、なんかイケナイこと言った?
というか、こういうところでシスコンとか言っちゃまずかった?
「ゴメン・・・アタシ、もう行くわ。そろそろ分娩しそうな妊婦さんがいるから・・・三宅さんも内科カンファレンスあるんでしょ?」
「・・・ええ。でも、謝らなきゃ・・・」
「こういう色ボケ状態で謝罪したって、どうせ充分には伝わらないわよ。静かに身を引くほうが親切かもね。」
「・・・・・・そうですね。」
ついさっきお兄ちゃんを巡って睨みあっていた奥野先生と三宅さん。
けれども今、ふたりの間には殺気立っている感じはなく、殴り合いのケンカをして仲直りした男の子達みたいに、何もなかったような空気。
「それはそうと、叩いて悪かったわね。」
「いえ、おかげで目が覚めました・・・」
「そう。じゃあ、三宅さんもあたしの仲間ってわけだ。」
「・・・あたしは奥野先輩みたいに仕事一筋で生きていくことなく、ちゃんと結婚します。」
「あたしだって、結婚を諦めたわけじゃ・・・」
そんな彼女達は私達のほうをちらり見して、こそこそ話をしながら、私達の横を通り過ぎて行ってしまった。
「康大、ちょっと詳しく事情が聞かせて貰おうじゃない。顔貸しな。伶菜の荷物も受け取らなきゃいけないしね。」
「さっき言った通りだ。」
「それで済むと思うなよ。伶菜と日詠先生は水に流してくれても、あたしはそうはいかない。落とし前はきっちりとつけさせてもらう。」
大きなスーツケースを転がしている真里に引っ張られながら康大クンも通り過ぎる。
「祐希クン、さて取りあえずおばちゃんの家、行こっか♪おばちゃん、今日、午後お休みだから、美味しいおやつ作ってあげるね♪」
「キャッ♪」
祐希を抱っこしてニッコリと笑ってから、私達を見てニヤリと意味深な笑みを浮かべた福本さんも足早に消えて行く。
そして、真っ先にこの場を離れるハズだったお兄ちゃんと私が、結局、この屋上に取り残されてしまった。
それでも手を繋いだままでいてくれたお兄ちゃん。
その横顔がなんだか悩まし気に見えるのは私の気のせい?
「もうそろそろ・・・行く、か?」
でも、まぁ、いっか!
どこに行くのかわからないし
何をするのかわからないけど
初めてのお兄ちゃんとふたりきりのお出かけ
康大クンとの結婚話が立ち消えた今の私なら、戸惑うことなく行ける
『うん♪』
そう思った私は繋がれた手をギュッと握り返した。