心がささやいている
母とは、もう暫く一緒に暮らしていない。中学に入った頃からずっと母方の祖母の家に住まわせて貰っていた。


「あの子のあの目…。何もかも見透かされてるみたいで苦手なのよ。あの目に見つめられていると本気で気が狂いそう。もう、耐えられないのよっ」

ある夜。祖母に私を預かって欲しいと頼み込んでいるのを偶然聞いてしまった、その母の言葉。
もう、ショックなど何も感じなかった。ずっと分かっていたことだから。いつだって母の心は、そう囁いていたから。

祖母は一人娘である母の要望にしぶしぶながらも応えたようだった。それからずっと私は祖母の家にお世話になり続けて現在に至っている。

それでも私の唯一の救いは、祖母が優しかったことかも知れない。
夫を早くに亡くし、子どもの手も離れ一人気楽に暮らしていた中、嫁いだ筈の娘に厄介者を押し付けられてしまった状態の祖母には申し訳ないとは思うけれど。それでも私は、彼女のお陰で救われたから。

祖母は私を邪魔者扱いすることはなく、彼女の心はいつだって私を気遣い、憐れんでいた。

『母親にあんな風に言われてしまうなんて…不憫な子ね』
『可哀想に…』

そして、孫を押し付けていった娘のことを心配しながらも嘆いていた。

『旦那に捨てられたのは可哀想だとは思うけど。子どもを可愛がれなくなるなんて母親として失格よね…』
『育て方、間違えちゃったかしら…』

祖母自身も、母としての責任を感じていたのかも知れない。


でも最近、母は新しい家族との生活を再出発させた。
めでたく再婚したのだ。
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