心がささやいている
咲夜は、思わず我が耳を疑った。
『ランボー』と呼ばれたそのワンコは、手の中で可愛いフワフワの耳と尻尾を振りながら後方にいる飼い主を見上げている。その愛くるしい姿からは、どうしたってその妙にいかつい名前に結び付くものなど何もないように見える。

(いや…まぁ、飼い主さんもそれぞれ色々な想いがあって、その名前をつけてあげてるものなんだろうけど…)

だけど、どうしてもその名からは某映画のマッチョな俳優のイメージしか湧いてこない。超、強そうな…ある意味男臭いイメージのアレだ。

「………」

思わず頭に浮かんでしまった可愛いワンコのイメージとはかけ離れたそれを振り払うように、ひとり頭をぷるぷると振っている咲夜の様子に大空は気付くことなく、自分を見上げている愛犬に言い聞かせるように言った。

「ランボー?小さな通りとはいえ、ここだって車が来ないとも限らないんだよっ。急に飛び出していったら危ないだろう?」

そう言って咲夜の手から愛犬を受け取ろうとするが、当のワンコは、その手からするりと逃れると「わんっわんっ」飛び跳ねながら再び咲夜の周囲を回り出した。

「ランボーっ?何して…っ…。すみませんっ!こら、止まれって。いったいどうしたんだ?…おかしいな、普段はすごい人見知りなのに…」

首を傾げている飼い主をよそに、ワンコは『久し振り』『また会えた』…そんな風に咲夜に訴えながら駆け回っている。そんな様子に思わず自然と笑みがこぼれた。

「そっか…。やっぱり、あの時のコなんだね。大きくなったね、らんぼー…?」

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