心がささやいている
記憶の中の天使
「…でなっ!突然走り出したランボーを追い掛けてったら偶然にも会えたんだよっ!あの例の女の子にっ!」


学校帰りに寄ってくれた友人の顔を見るなり、待ってましたと言わんばかりにそう興奮気味に今日の出来事を語り出したのは、このクリニック『おおぞら動物救済センター』の院長であり経営者でもある大空辰臣その人であった。

先程届いたばかりだという備品の入った荷物を開ける手を止め、身を乗り出すようにして未だ興奮冷めやらぬ様子で語るその友人に、きょとんとした表情を向けながら幸村颯太(ゆきむら そうた)は静かに口を開いた。

「あー、それって確か、辰臣さんの思い出の…」
「そう!それそれっ!」
「初恋の人?」
「ちがーうっ!」

じれったいと言うように悔しがりながら希望通りのツッコミが返って来ると、颯太は満足げに口の端を上げた。

「冗談だよ。ちゃんと解ってるって。辰臣さんがココをつくるキッカケになったっていう子だろ?」
「そう。それそれっ」
「小さい頃、散々聞かされたからな。流石に覚えてるよ」
「…それは…。悪かったね」


辰臣と颯太は少し歳は離れているものの、いわゆる幼馴染みという間柄だ。昔住んでいた家が隣同士で、実は十もの歳の差があったりするのだが、元々面倒見のいい辰臣が小さな颯太をよく遊んであげていたことで、すっかり颯太に懐かれてしまったというのが始まりだった。辰臣が中学、高校を経て大人として成長していく中でも小さな颯太は度々辰臣の元へと遊びに来ては、様々な話をしたり一緒にゲームをしたりと、その関係は崩れることなく、今では対等な友人としての関係を築いていた。
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