心がささやいている
実は、以前にも似たようなことはあった。その時は、後ろから尾行(つけ)て来ていたのは同じ中学校の男子生徒で。暫く歩いた後呼び止められ、いわゆる告白というやつをされたのだ。だが、その時は後ろからついて来られた時点で、その人物の緊張やその他諸々(もろもろ)の呟き(欲望やら妄想の類)がダイレクトに聞こえてきてしまい…。呼び止められた頃には、既にドン引きしてしまっていたのだけど。それだけが理由という訳でもないのだが、当然のことながら丁寧にお断りをして終わったのを覚えている。
だが、今回は流石にそういう雰囲気でもなさそうだった。

(変な『悪意』みたいなものも特に感じないけど…)

それが逆に気持ち悪い気もした。普通、何かしら『声』は外へ漏れ出るものだからだ。相手に気付かれないようにだとか、こっそり行動したりするような時は特に。でも、後方を歩く人物からは、それが聞こえて来ない。

(どうしようかな…)

さりげなく撒こうか。そんなことを考えていた時だった。不意に目前の道路上に光る何かが落ちていることに気付く。
咲夜は数歩進んで足を止めると、それを拾い上げた。それは小さなキーホルダーの付いた鍵だった。形状からして自転車の鍵であることが分かる。
それを手にしながら、咲夜は立ち止まったまま周囲を見渡した。そこは、いつもの川の土手上の道で。車こそ来ないものの、この時間帯は自転車や歩行者の往来はそれなりに多い。それに加え、自然や広場の多いこの辺りには小学生たちが所々で遊んでいるのも見掛ける。

(この辺りで遊んでる子が落としたのかな?)
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