心がささやいている
「おい、待てよ。もしかして、これから行くのか?駅前の交番に?」

話は終わったとでも言うように歩き出した咲夜に、その人物は少しだけ慌てた様子で再び横に並ぶと、当然のようについて歩き出した。

「落とし物なんだもの。当然でしょう?」
「この辺に置いとけば?そのうち探しにくんじゃねーの?」
「…確かに一度はそれも考えたんだけど…。でも、この辺りで目につくような良い置き場所はないし、交番に届けた方が一番間違いないでしょう?」

いつまでついてくるんだろうと頭の端で思いながらも。普通に話し掛けられれば答えない訳にもいかなくて返事を返していたのだけれど。

「ふーん…。意外に真面目なんだな」
「………」

ちょっぴり揶揄うような、その言葉にカチンと来た。

「名前も知らない人に『意外に』とか言われたくない」

少しだけ不機嫌さを含みながら歩く速度を速めた。後方で相手が足を止めたのが分かったけれど、気にせずそのままずんずん歩く。相手が何を思ったかは分からない。『声』は相変わらず聞こえて来なかったから。でも、それでもいいと思っていた。




つかつか歩いて行ってしまった彼女の背中を見送りながら颯太は考えていた。

(ありゃ…怒らしちゃったか?)

何が彼女の気に障ったのかは解らなかったけれど。その辺のことも含めて彼女、『月岡咲夜』の印象は少しだけ自分の中で変わった。
周囲の反応からして、少しお高くとまっている感じなのかなと思っていたのだが、実際はそうでもなかった。

(なぁんだ…。超、フツーのコじゃん)

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