心がささやいている
ランボーは足元まで来ると、咲夜の周りをぴょんぴょん跳ねながら回り始めた。どうやら喜んでくれているようだ。

「こんにちは、らんぼー」

咲夜はその場にしゃがみ込むと、ランボーの頭を優しく撫でた。すると、今度はその場にお座りをして尻尾を振りながら嬉しそうに撫でられるままでいる。『嬉しい』『また会えた』そんな気持ちが昨日と同様に伝わってくる。
そんなランボーの様子に咲夜は心が温かくなった。
本音を言ってしまうと、今日ここに来ることに少し躊躇(ためら)いがあった。
確かに思わぬところで過去に出会った『子犬』と『おにいちゃん』に再会出来て嬉しかったし、懐かしさで一杯になったのは事実だ。それに、ランボーの様子を見ていれば、優しいおにいちゃんこと大空さんは、あの時の自分との約束を守り、ランボーを大切に育て、一緒に過ごしてくれていたことが分かる。それが何より嬉しかったし、あの時、この小さな命を守ることが出来て本当に良かったと心から思った。
でも、こうして喜んでくれているランボーには悪いけれど、一歩踏み込んで人との繋がりを増やしてしまうことに、どうしても抵抗を感じてしまう自分がいるのも事実なのだ。

「是非、遊びに来てよ。ランボーも喜ぶし」

その言葉に嘘はないのだろう。勿論、深い意味が無いことも解っている。
普通ならば、そんなに気負うようなことでもない筈だ。

でも、踏み込めば踏み込む程に…。親しくなればなる程に、表には見えない相手の心の本音を知ってしまった時、傷つく自分がいることを知っているから。

それが、何より…怖かった。
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