心がささやいている
市街を流れる川の土手上に作られたこの道からは、自然豊かな緑に囲まれた川の流れを見渡せる一方で、家々を隙間なく敷き詰めたかのような賑わう街並みも一望出来る。

咲夜は、ここからの川側の景色を眺めるのが好きだった。
どんなに学校へ向かうのが憂鬱な朝も、身も心も消耗して疲れ果てて帰路に就く放課後も。この景色を見つめているだけでどこか癒されていくような、そんな気がするのだ。
だが、その一方で。
多くの人々が暮らす生活圏と、そこだけ切り離されたように広がる自然との間に位置するこの道こそが、自分の立ち位置そのもののような気がしてしまうのも事実だった。

人と馴染めない自分。
浮いた存在。

それを今更、どうこう悩んだりはしないけれど。

いつから、こんな能力が身についたのかは自分でも分からない。もしかしたら生まれつきのものだったのかも知れない。ただ、小さな頃は特に何を気にすることもなく、その微かな囁きに耳を傾けることさえなかったのだと思う。


西日を浴びてキラキラと煌めく川の水面(みなも)が光を乱反射する。その眩しさに咲夜は思わず目を細めた。風が緩やかに通りを吹き抜け、咲夜の長い髪をなびかせてゆく。


人の心の声が聞こえる。
そんな普通ではあり得ない、信じ難い能力を自分が持っていると初めて自覚したのは、自分がまだ小学校へ上がったばかりの頃だった。
その日のことは良く覚えている。
その声は、大抵の子ども達にとって一番近しい人物にあたるであろう『母親』のものだった。
< 6 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop