心がささやいている
当時、両親は離婚をしたばかりだった。
父親が外に愛人を作り家を出て行ってしまった為、自分は自動的に母親側に引き取られる形となった。
身勝手な父に裏切られ、離婚を承諾するしかなかった母は、本当なら悔しさや悲しさなどで一杯だった筈だ。それでも当初は自分の前では毅然とした態度を貫いていたと思う。
私は当時、まだ離婚の意味を理解していなかったけれど、父は元々あまり家に居ない方だったので、母に「さやはママと二人だけでも大丈夫だよね?」と、聞かれても「うん!」と笑顔で返していた程だった。
だが、女手一つで子どもを育てるのはやはり苦労も多かったのだろう。フルタイムで働き、帰って来た母が疲れ果てて動けずにいた時があった。
既に夜八時を回ろうとする頃、未だ夕食の支度にも取り掛かれず俯き座ったままの母に。
「ママ…だいじょうぶ?」
心配で何度も声を掛けたが大した反応は返って来ず。自分にも何か出来ることはないかと戸惑い、どうしようか迷っていた時だった。
その時、俯いて沈黙を続ける母の声が、何処からか微かに聞こえて来たのだ。
『もう疲れた…。何で私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないの?もう、ウンザリよ…』
「…えっ?」
咄嗟に聞き返したその自分の声だけが冷たい部屋の中に響いた。それでも母は動かない。沈黙を守ったままだった。
「…ママ…?」
『これも皆あの人が悪いのよ。何であんなのと結婚しちゃったんだろ。結婚なんかしなきゃ良かった…』
その囁きのような声は、次第にしっかりと耳に届いてきた。
『あの人の子どもなんか産むんじゃなかった』
父親が外に愛人を作り家を出て行ってしまった為、自分は自動的に母親側に引き取られる形となった。
身勝手な父に裏切られ、離婚を承諾するしかなかった母は、本当なら悔しさや悲しさなどで一杯だった筈だ。それでも当初は自分の前では毅然とした態度を貫いていたと思う。
私は当時、まだ離婚の意味を理解していなかったけれど、父は元々あまり家に居ない方だったので、母に「さやはママと二人だけでも大丈夫だよね?」と、聞かれても「うん!」と笑顔で返していた程だった。
だが、女手一つで子どもを育てるのはやはり苦労も多かったのだろう。フルタイムで働き、帰って来た母が疲れ果てて動けずにいた時があった。
既に夜八時を回ろうとする頃、未だ夕食の支度にも取り掛かれず俯き座ったままの母に。
「ママ…だいじょうぶ?」
心配で何度も声を掛けたが大した反応は返って来ず。自分にも何か出来ることはないかと戸惑い、どうしようか迷っていた時だった。
その時、俯いて沈黙を続ける母の声が、何処からか微かに聞こえて来たのだ。
『もう疲れた…。何で私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないの?もう、ウンザリよ…』
「…えっ?」
咄嗟に聞き返したその自分の声だけが冷たい部屋の中に響いた。それでも母は動かない。沈黙を守ったままだった。
「…ママ…?」
『これも皆あの人が悪いのよ。何であんなのと結婚しちゃったんだろ。結婚なんかしなきゃ良かった…』
その囁きのような声は、次第にしっかりと耳に届いてきた。
『あの人の子どもなんか産むんじゃなかった』