心がささやいている
「でも、もしも見つからなかったとしても、お気になさらず切り上げて下さいね。急なお願いしたのはウチですし、明日には引っ越しを控えていますので私たちも今日は早く休む予定でおります。なので、タイムリミットは先程お話した通り、遅くとも今晩八時として下さい。それまでに見つからなくても料金は、きちんとお支払いしますので」
「分かりました。八時までには、こちらからご連絡を入れるようにします」
穏やかにやり取りをする中、続いて聞こえてくる男の本音は耳を疑うものだった。

『ま、せいぜい捜し回ってくれよ。最初から見つかる筈のないものを捜さなきゃならないこいつらには気の毒だが、ま…金は払うんだから問題ないだろ。こっちは客なんだからな』

(…どういうこと?もともと、そんな猫はいないとか…そういう意味?)
何にしても感じが悪いこと、この上ない。
もともと捜す気などないのだということだけは判った。
(でも…。それなら何故、わざわざこんな依頼をしてくるんだろう…?)
耳に届いてくる、その囁きに意識を奪われていたその時だった。

「おい。どうした?月岡…?」
「…えっ…?」

突然、横から声を掛けられ、我に返る。
颯太が辰臣と依頼主との会話を邪魔しないように声を落としながらも、はっきりと、こちらに問い掛けて来る。

「お前…、何かあったのか?」
「え…?何かって…なん、で?」

いつから見られていたのか。
動揺を隠せずにいる咲夜の、表情の奥に隠された真実を探るかのように颯太はじっ…と見つめると言った。

「お前、なんか怖い顔してるぞ」
「……っ…」

その全てを見透かすような、真っ直ぐな眼を見ていられなくて。
「な、んでもない…」
咲夜は瞳を逸らすことしか出来なかった。
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