心がささやいている
だが、その表情は綺麗であるのに何処か痛みを伴っているような気がして、それが何故なのか気になっていた。
それは、人間観察が趣味とも言える俺の純粋な興味でしかなかったのだけれど。

「それに、さ。辰臣さんの身を案じてくれてるんだろ?そこは俺としても同意見だし、それだけで信じて動くに値するっていうか、な?」
下手したらブラコンを疑われそうな発言ではあるが、(まぁ本当の兄弟ではないけど)そう言ってわざとおどけて見せると、月岡も少しだけ表情を和らげて笑みを浮かべた。
「本当に大切なんだね、大空さんのこと」
「兄貴として、ね。そこ一応、念押しておくけど」
そう言って控えめながらも二人笑い合ったのだった。

そうして月岡と別れた後、すぐに俺は依頼人に確認の連絡を取った。彼女の話を疑っていた訳ではないが、何よりあのモードに入っている辰臣さんを説得して止めさせる為には、ちゃんとした確証がないと駄目だと思ったのだ。
そうして、カマを掛けて問いただしてみれば、飼い主は猫を保健所へ連れて行って処分を願い出たことを案外あっさりと認めたのだった。

結果、彼女の話は真実だと証明された。
その情報をどう知り得たのかは別としても。

(でも、人の心の声が聞こえる…って。マジかよ…)

そんな能力、あり得るのだろうか。
人の心全てではなく、その人の外に出せずにいる強い思いや気持ちが声になって聞こえてくる。彼女はそう言った。
今回のことは、飼い主の嘘や秘密を抱えている後ろめたさが声になったということなんだろうか。

(そんな罪悪感とか自責の念みたいなものは、アイツから微塵(みじん)も感じなかったけどな)

電話越しに聞いた依頼人の不愉快な笑い声を思い出し、再び不快な気持ちになって溜め息を吐いた。
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