心がささやいている
(そんなのが自然に耳に入って来るとか、ウザイ以外の何モンでもねーわな…)

下手したら人間不信にでもなってしまいそうだ。
何にしても、そんな風に人を(あざむ)いたり偽ったりしている者たちの負の感情を受け取ってしまうなんて、精神的にも(こた)えそうだと思った。

「………」

未だに降りしきる雨は傘を打ち、ボタボタと伝い落ちる雫が既に重く湿った足元を濡らしてゆく。
颯太は再び小さく溜め息を(こぼ)すと、家路へ向かう足を進めた。

(アイツ、明日顔出すって言ってたし詳しい話は明日、だな…)




咲夜は祖母に頼まれた買い物を済ませ、家へと戻っていた。
寄り道をしていたこともあってか思いのほか濡れてしまい、家へ入るなりその姿を見兼ねた祖母に風呂場への直行を命じられてしまった。そうして早々に入浴を済ませ、しっかり身体が温まった咲夜は二階の自分の部屋のベッドで横になりながら教科書を広げていた。来週、数学の小テストがあるのだ。

だが、先程からページをめくっていても公式を眺めるだけでなかなか頭に入って来ない。でも、自分でも集中出来ない理由は分かっていた。

(幸村くん…どう、思ったんだろう…)

初めて、この能力のことを人に打ち明けた。
大空さんの為…とは言え。
大空さんは優しい人だ。動物たちの為に本当に一生懸命で。
そんな人が辛い思いをするのを見たくなかった。自分の保身の為だけしか考えていないような人に利用されてしまうのも嫌だった。でも…。

(だからって、あんなこと言い出したら普通は引くよね…)

幸村くんは普通に話を聞いてくれた。多分あの後、彼は大空さんの元へ行き、依頼人の事実を伝えて雨の中の捜索を止めてくれた筈だ。

でも、それは彼自身が大空さんを想うが(ゆえ)で。
私の言葉を信じるかどうかは別の話だ。
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