心がささやいている
(本当に信じてくれたのだとしても、気持ち悪いって思うのが普通…だよね)

伝えた時の幸村くんの表情。どこか身構えるような警戒するような、ほんの一瞬だけだったけど、そんな様子が見て取れた。

分かっていたことだけど、少しだけショックだった。

誰だって他人に心の内を読まれたり、覗かれてしまうなんて不快でしかないに決まっている。全てを見透かされていると分かっていて、そんな人物と平然と傍に居続けられる人なんてそういないだろう。
そう。母のように…。

私が聞こえるのは『全て』ではないけれど、聞こえてくる声と聞こえてこない声の境目など、どこにあるのかなんて分からない。他人から見れば勝手に心の内を知られてしまう事実に変わりはないのだ。
実際、私だって人に心の中を覗かれてしまうのは怖いと思う。何も後ろめたいことややましいことなんかなくっても。
それが当然の反応なんだろう。

別に、私が知りたいと望んでいる訳ではないけれど。

そう。私はこんな能力、望んでいない。
人の内面を知りたいなんて今も昔も思ってない。
なのに…。

(どうして、こうなっちゃったんだろ…)

この能力のせいで、私は母親と決別した。そのことに今更後悔なんて何もないけれど。
母の心の内を知らなければ、母がどんなに心の中で私を煩わしいと思っていても、成長していくにつれ父に似ていく私に嫌悪感を(いだ)いていようとも、私は母を母親として普通に慕っていられた筈だ。
母は母で、私に裏切った父を重ねながらも母親としての義務を果たしてくれていたのだろう。自らの後ろめたい心を見透かしてくる『気持ち悪い娘』でさえなければ。

この能力は…。
私たち母子(おやこ)にとっては、全てにおいて悪循環でしかなかった。
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