心がささやいている
彼らとも、このことが原因で終わるんだろうか。
そう思うと少しだけ胸が痛んだ。

ちょっと、今までにはない場所だったから。
何だか、とても居心地が良かったから。

いつだって自ら他人と距離を取り。
敢えて近づいてくる者には、冷ややかな視線や態度でけん制する。
近くにいればいる程、その人物の本音を目の当たりにしてしまうから。それが表面上に現れている態度や言葉と違っている程、悲しくて。時には傷つき、幻滅して。
そして同時に、そんな人の隠された一面を勝手に盗み聞いているような自分自身に嫌気が募っていった。

聞きたくなんかないのに。
知りたくなんか、なかったのに。

だけど、彼らと一緒にいると…。そんなに長い期間一緒にいた訳ではないが、二人からは何故だかそんな心の声が聞こえてくることはなかったから。
普段知らず知らずのうちに張り巡らしている神経がマヒを起こしているというか、どこか感覚が休まっているような、そんな感じがしていた。

「はぁ…」

もう何度目か分からないため息を、またひとつ吐く。
自分からカミングアウトしておいて今更、自業自得だとは思うのだけど。
拒絶されると分かっていて、明日またあの場所に顔を出さなくてはいけないのは憂鬱(ゆううつ)以外の何ものでもないなと咲夜は思った。

(…約束なんか、しなきゃ良かったな。明日、気が重い…。行きたくない、な…)

広げたままの教科書に咲夜はそのまま顔を突っ伏すと、再び大きなため息を吐くのだった。





翌日。土曜日。


「あっ!!咲夜ちゃん来たっ!おっはよーーーーっ!!」


ごく自然に向けられた優しい笑顔と。「今日はいい天気だねぇー」と続けられた、ある意味能天気とも言える明るい辰臣の声に咲夜は面食らっていた。

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