死者の幸福〜最期のメッセージ〜
「いらっしゃいませ」

青いギンガムチェックの蝶ネクタイの制服を着た店員が頭を下げる。その顔に藍は少し見覚えがあった。どこで見た顔だろうと記憶を辿る。しかし、気付くのは相手の方が早かった。

「もしかして、法医学研究所の人ですか?」

店員の胸元には、大野と書かれている。店員が口を開いた。

「あたし、大野花凛(おおのかりん)です。覚えているかはわかりませんけど……」

「えっ!?花凛さん!?」

藍は驚いた。目の前で大野花凛は恥ずかしそうにしている。

大野花凛とは、ひき逃げされた老人の解剖をした際に出会った。その時の大野花凛は化粧をし、学校を平日でもサボり、言葉使いも乱暴だった。しかし、今は化粧も言葉使いも落ち着いている。

「あの時は、おじいちゃんを解剖してくれてありがとうございます。失礼な態度ばかり取ってしまっていて、本当にすみませんでした」

大野花凛は頭を深く下げる。藍は「いえ、顔を上げてください」と慌てて言った。
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