死者の幸福〜最期のメッセージ〜
有働海彦が亡くなっていたのは、一階の奥にある部屋だった。他の部屋よりも小さめで、なぜかこの部屋にだけ小さなテーブルや椅子が置かれている。

「ここで生活していたらしい」

大輔が指差す先には、寝袋などが置かれていた。調理器具もある。

「自殺するのに、わざわざここで生活するなんて変ですよね」

大河がそう言い、部屋を見回す。藍も部屋を観察し、「あら?」とあるものを見つけて手に取った。

「手鏡……?」

全員が同時に呟く。女性が使うような淡い水色の可愛らしい手鏡が床に落ちていた。

「一体なぜこんなものが……。とりあえず、海彦さんがこの手鏡を購入した場所を調べるぞ」

大輔が指示を出し、すぐに原刑事が動く。その様子を見ていた藍のスマホに電話がかかってきた。英二からだ。

「藍先生、海彦さんの血液検査の結果が出ました」

有働海彦は、ハシリドコロというナス科の植物の毒により亡くなったことがわかった。谷間の湿った木陰に生える多年草で、フキやタラノメに間違われることがある有毒植物だ。食べると、視力障害や幻覚、痙攣などを起こし死亡する。
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