旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「ねえ、婚約してた間、結婚の準備も少しはしてたの?」
「ああ、まぁ……式場の候補ピックアップしたり、指輪見に行ったり……あと、婚姻届も役所から持ってきてあった」
うつむきがちに語ったエビの姿に哀愁を感じ、私は派手に同情した。
「わー、切なっ……。じゃあその婚姻届、泣きながらびりびりに破って捨てたの?」
「泣くかばか。相手にはこれっぽっちも気持ちなかったんだから、別に切なくねえし。でもそういや、捨て忘れてたかもな婚姻届……」
そう言ってソファから立ち上がったエビが、テレビ脇のラックにある書類ボックスを開けて中をあさった。そこから一枚の紙を取り出して戻ってくる。
「見せて見せてー。婚姻届って実は見たことないの」
「はいよ。自分の方だけ埋めてあるのがなんとも痛々しいけどな」
差し出された婚姻届けをまじまじと眺める。
ホントだ……エビの方だけ、力強くきれいな字で、全部埋まってる。しかし女性側が真っ白という状態がなんとももの悲しい。
「ねえねえ、私が代わりに結婚相手になったつもりで空欄埋めてあげよっか。完成したら、燃やして捨てようよ。ボールペン貸して?」
「……お前、興味本位で書いてみたいだけだろ。ま、いつまでも取っておいても仕方ないし、好きにすれば」