旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 借りたボールペンをサラサラと走らせて、まずは自分の名前を書く。

【海老名隆臣】の隣に【蟹江理子】――こうして名前が並ぶと、海老と蟹がめっちゃ主張してくるなぁ……。こんな名前の夫婦が実在したら、役所内でネタにされそうだ。

「でーきたっ」
「どれどれ」

 完成した婚姻届けを覗き込むなり、エビは即座に吹き出した。

「これは……甲殻類アレルギーの人が見たらぶっ倒れそうなインパクトだな」
「ふふっ。だよねえ。じゃ、これはもう必要ないし燃やしちゃおっか」

 婚姻届けをパタンと半分に折り畳んでそう言うと、エビがハッとしてつぶやく。

「……よく考えたら、うちって火をつけるものがねえ」
「あぁ、そっか。タバコ吸う人じゃないと、ライターとかあまり使わないもんね。ガスコンロは?」
「このマンション、オール電化」
「なんてこった」

 酔っ払いの私たちは、大して面白くもないのになぜかふたり顔を見合わせて笑い転げ、落ち着いた頃に再度婚姻届けを見つめて話す。

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