旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

『蟹江さん。たっくんのこと、私に返していただけますよね?』
『え……?』
『この誕生パーティーで、彼は近親者に結婚相手を紹介するのが決まりなんです。由緒ある海老名家に嫁ぐような身分も覚悟も、蟹江さん、あなたにはないでしょう?』

 そう言った佑香さんの鋭い視線には、当初の天真爛漫で愛嬌たっぷりな雰囲気などまったくなく、さながら獲物を発見した鷹のようだった。

 感情を抑えてはいるけれど、おそらく本当は私に腹を立てているのだろう。昔から決定事項だったはずの、海老名家と鷹取家の繁栄のための結婚に、一般庶民の私が水を差してしまったから。

 ……でも彼女の言う通り、私は彼にふさわしい人間ではない。隆臣のことは好きだけど、大好きだけど……彼らを取り巻く巨大な権力に盾突く度胸なんて、ない……。

 私はやりきれない思いを抱えつつも、自分の出した答えを佑香さんに伝える。

『……わかりました。隆臣とは、別れます』

 すると佑香さんは、すっかり機嫌を直して微笑み、両手を合わせて喜んだ。

『よかったぁ。蟹江さんってとても賢そうな女性だから、そう言ってくれると思ってました』

 それから私は心の中から感情を閉め出し、隆臣の誕生パーティーの企画について、佑香さんの要望を詳しくヒアリングしていった。

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