旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 私たちは、身分違いだった。ただそれだけのこと。でも、それなら……最初から、幸せな夢なんか見せてほしくなかった……。

 私は寝たふりをしているのも限界になり、冷たく言い放つ。

『うそつき』

 隆臣はあからさまに動揺し、そんな彼の態度にますます苛立ってしまう。そして、私は自分の言いたいことだけを一方的にぶつけて、彼のもとをを去ろうとしたけれど。

『俺のことが嫌いになったのか……?』

 最後に投げかけられたそんな質問に、胸が詰まった。

 ……そんなことあるはずない。好きよ。このままずっと一緒にいられたらって、この期に及んでまだ考えてるくらい。でも……そんなことを言ったら、優しい彼を困らせる。

 あなたは、ガンベロの次期社長になる、立派な人なんでしょう? ……だったら、これ以上私に情けをかけてはダメ。家のため、会社のために、佑香さんと結婚するのが、きっと正しい道なの。

 そして私は切ない思いを振り切って、本心とは真逆のことを口にしたのだった。

 そっけなく、『ええそうよ』――と。

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