旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~
「これなら口内炎にも響かないだろ?」
「えっ。……あ、そういえば」
思い出したように舌先で顎の内側に触れると、口内炎は昨日よりずいぶん小さくなっていた。痛みもそれほどない。
「けっこう治ってる。アンタに愚痴吐き出したついでに口内炎の膿も出ていったのかも」
「ふーん……じゃ、キスもし放題だ」
ピッとボタンを押してIHコンロを切ったエビが、突然私の顎を掴んでくい、と上を向かせた。彼の澄んだ瞳に映る私は、ぽかんと間の抜けた表情だ。
だって、キス……って、急になにを言い出すのかと思うじゃないの。
しばらくお互いに無言だったけれど、やがてエビは私の顎からスッと手を離した。同時に我に返った私は、茶化すように笑って言う。
「……な、なに言ってんの。アンタも昨夜のLINE見たでしょ? キスする相手なんかもういないって。おまけに口内炎に影響あるような濃厚なやつなんて、一生縁ないかもだよ」
なんて、自分で話していて切なくなる。このまま一生キスに縁がなかったらどうしよう……。恋なんてしなくても生きていけると断言できたらカッコいいんだろうけど、私はそんなに強くないみたいだ。