旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

「や、やだ! 私、いつまでもアンタとはなんでも話せる関係でいたいよ……!」

 思わずガバッと体を離し、エビの顔を見上げてすがるように訴える。

 エビがどうしてそんなことを言い出したのかはわからないけれど、私たちの友情が壊れるのだけは嫌。仕事上でも頼りにしているし、昨夜みたいに愚痴を言い合いながらお酒を飲む相手、アンタくらいしかいないのに……。

 私の頼りない表情を見たエビは、ふっと苦笑した。それからもう一度私の背中に手を添えて、優しく抱き寄せる。

「ばか、そういう意味じゃねえよ。……意外と鈍いのな、お前」
「は……? 全然意味わかんないんだけど……」

 口では不満を言いつつも、優しいハグに何故かホッとした。どうやら友情が壊れたわけではないらしい。でも、それならさっきの言葉はいったい……。

「じゃ、そろそろ行くわ」

 しばらくするとエビは私を解放し、先ほどの切なげな雰囲気などすっかり忘れたような普段の調子でそう言った。

「うん。ありがとう、……色々」
「じゃあな。また来週会社で」

 ……結局エビはなんの話がしたかったんだろう。私が泣いてたのに気づいて、元気づけようとしてくれただけ?

 彼の発言や突然抱きしめられた意図にしっくりこないまま、私は遠ざかっていく広い背中に手を振った。

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