旦那様は内緒の御曹司~海老蟹夫妻のとろ甘蜜月ライフ~

 しかし、そのことはベニッシモの社員にはあまり知られていない。俺もその方が気が楽だからとくに自分から教えることもないし、社長である叔母が結婚して海老名の姓ではなくなっているせいもあるかもしれない。

「で、見たってなにをですか?」

 なりゆきでしかたなく尋ねると、叔母さんはにやりといやらしく笑って俺を見上げた。

「朝からあんな熱~いキスしちゃって。婚約がダメになった話は聞いたけど、会社に好きな子がいたとはね~」
「げ。……よりによって叔母さんに見られるとは」

 不覚、といわんばかりに頭を抱える俺を、叔母さんはふざけた口調でからかう。

「いいんじゃない? 隆臣がちゃんと恋愛してると知ったら兄さんだって喜ぶわよ。さっきの彼女のこと、来月の誕生パーティーでみんなにお披露目するのが楽しみね」

 誕生パーティーね……。名家だか旧家だか知らないが、古くから社会的地位のあったらしい海老名家には、とある面倒でくだらない家訓があるのだ。

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